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Case Study|導入事例

日光ケミカルズ株式会社

日光ケミカルズ株式会社

ありのままの界面活性剤を評価できる共焦点顕微鏡

界面活性剤をはじめとする化粧品・食品・医薬品・工業用の原料販売を主力事業とする日光ケミカルズ株式会社(以下、日光ケミカルズ)は、2022年に新たに化成品事業部を立ち上げ、更なる成長に挑戦しています。この新事業部の発足に伴い、日光ケミカルズは開発・提案型企業を目指して、2022年3月にオックスフォード・インストゥルメンツの共焦点ラマン顕微鏡「alpha300 apyron(アルファ300 アパイロン)」をR&Dセンターに導入しました。研究開発・サポート業務を進める小倉 卓博士(化成品事業部長 兼 研究推進室長)に、今回の共焦点ラマン顕微鏡の選定と活用についてインタビューしました。

(敬称略)

日光ケミカルズ株式会社
化成品事業部長 兼 研究推進室長

小倉 卓(おぐら たく)博士(工学)

日光ケミカルズ株式会社

https://www.nikkol.co.jp/

【導入製品】WITec* 自動化共焦点ラマン顕微鏡「alpha300 apyron(アルファ300 アパイロン)」
【導入時期】2022年3月
【導入台数】1台
【導入前の課題】化粧品原料のミクロ構造を変化させずに評価すること
【導入後のメリット】直接観察が可能になるとともに、深さ方向の詳細な構造解析が実現

*WITec(ビーテック)は、ドイツ・ウルム市に研究、開発、生産拠点を置く、3D ラマンイメージングと相関顕微鏡のパイオニアです。2021年9月、WITecは、オックスフォード・インストゥルメンツのグループに加わりました。

導入事例 「日光ケミカルズ株式会社」 インタビュー(フルバージョン)

導入事例 「日光ケミカルズ株式会社」 インタビュー(ショートバージョン)

日光ケミカルズの事業についてお聞かせください。

【小倉 博士】日光ケミカルズでは、化粧品原料や界面活性剤、有効成分の製造・販売に関する事業が全体の8割程度と、主力的な役割を果たしています。そして昨年、私が事業部長を務めている化成品事業が新たな成長の柱を目指して立ち上がりました。また、私たち日光ケミカルズは、私たちのお客様である BtoCの企業に対して、お客様の課題解決に適した界面活性剤や有効成分の機能を常に提案する必要があります。そこで私たちは、お客様の課題に対し、当社が開発した製品をソリューションとして提供できる開発・提案型企業への挑戦を続けています。

この数多くの企業がひしめき合う化成品の市場において、市場を勝ち取るということは容易なことではありません。しかし、今回導入したWITecの共焦点ラマン顕微鏡など様々な分析機器を活用し、複数の解析結果を多角的な視点で評価することによって、信頼性の高いソリューションを顧客に提供することが可能になりました。さらに国内外問わず、日光ケミカルズの原材料を使用していないお客様を含む、多くのBtoBメーカーの研究員が日光ケミカルズのラボに来て、このラボで実際に自分たちの手で私たちと実験を行い、学会発表や論文投稿といった活動が行われています。おそらく世界中でこのラボだけだと思いますが、私たちは小角X線散乱装置を3台、その他にレオメータ―やQCM (水晶振動子マイクロバランス法) を所有しています。そこに昨年3月にWITecの共焦点ラマン顕微鏡を新たに導入しました。このことにより、お客様の求めている内容、分析レベル、アウトプットの表現方法などをディスカッションし、複数の装置で分析結果を考察できるマルチラボが実現していると考えています。

日光ケミカルズ株式会社R&Dセンターのエントランス

共焦点ラマン顕微鏡、小角X線散乱装置、
レオメータ―、QCMを設置しているラボ

なぜ日光ケミカルズの主力事業である化粧品原料や界面活性剤の分析に、ラマン分光法および共焦点ラマン顕微鏡が必要だったのでしょうか?

【小倉 博士】界面活性剤や有効成分の分析に関して、今までそれらを直接的に観察することができなかったという課題がありました。比較的適した観察手法としては、蛍光顕微鏡や試料を低温で固定化するクライオ電子顕微鏡などの技術があります。分析を始めた当初はそれらも利用しました。しかし、クライオでは凍結固定された状態となってしまいます。また蛍光顕微鏡では、液状で観察することができますが、原理的に特定の物質に吸着する蛍光物質を試料に添加する必要があります。そしてさらに化粧品の原料としてのクリームや乳液に対して蛍光物質を添加すると、その蛍光物質が水と油界面に並んでいる界面活性剤のバランスを崩し、構造を変化させてしまうことがわかりました。つまり、直接的にそのままの状態のクリームを評価できないことが、分析上の大きな課題でした。一方で、ラマン光は非常に微弱な散乱光ですが、何らかの化学物質などを添加せず分析ができます。そこで私たちは、そのままの状態が観察できるラマン分光法に着目しました。

日常ではまだマスクを着用されている方を多く見かけますが、スキンケアを気にかけている一般のお客様は非常に増えています。そこで私たちは皮膚への有効成分の浸透について分析しています。皮膚は、体の内側から「皮下組織」「真皮」「表皮」と言われる3層構造になっています。最表面の表皮にスキンケアのクリームや有効成分が塗られているような場合、表皮から数10ミクロン、髪の毛1本程度の太さの深さのクリーム内部の情報が重要になります。そこで、深さ方向の正確な情報を得るには、ラマン測定用の励起光を十分に絞る精密な共焦点性を持つ装置が必要になります。集光させるその体積が小さくなれば、その小さな領域のラマン情報を取得できます。それを深さ方向に移動させれば、表皮に何が付着し、どのようなことが起きているかといった詳細な情報を得ることができます。それを実現できる装置が共焦点ラマン顕微鏡なのです。

WITec共焦点ラマン顕微鏡alpha300の選定理由を教えてください。

【小倉 博士】私たちは多角的な解析が可能かどうかを重要視しています。当然のことながら間違えた装置を購入してしまうと間違えた結果しか出てこないため、結果の裏付けとなる理由が信頼できなければ購入の決定をしません。私自身、分析装置が好きなこともあり、自分で装置の操作を行い確認しています。得られたデータの解析を行う場合においても、多角的にデータを処理できなければ満足した解析結果が得られません。通常、私はそのような点に留意し、デモ測定を通して全体的な使用感の評価をします。

今回の共焦点ラマン顕微鏡の選定に関しては5社に連絡し、デモ測定を行いました。私たちの使用目的の一つは、皮膚とクリームの界面における油分や薬効成分などの分布を解析することです。そこで非常に重要となるのが深さ方向の分解能となる共焦点性です。今回選定となったWITecのalpha 300の共焦点性は、他社メーカーの装置と比較して明らかな優位性がありました。この点が、今回の選定を決めた一番の大きな理由です。また、私たちがBtoC企業のお客様に化粧品原料のプレゼンテーションを行う際に、非常に効果的な画像を作りやすかったということも選定理由の一つです。

WITec自動化共焦点ラマン顕微鏡「alpha300 apyron」:
日光ケミカルズ株式会社R&Dセンターのラボにて

WITecラマンの高い共焦点性にはどのような理由がありますか?

【小倉 博士】まずレンズです。WITecの共焦点ラマン顕微鏡に搭載されているレンズが、抜群です。いずれのラマン装置でも、装置を起動させた後、光軸を合わせ、共焦点性を確認してから測定を始めます。その際、WITecの装置では光軸のずれがほぼありません。このレンズにより究極的に光を絞れることが、深さ方向の解像度に関わる共焦点性の向上に大きく寄与していると感じています。またレンズのみならず、光伝送ロスがほとんどないシングルモードファイバー伝送により、小さなボリュームに絞られた励起光(点光源)を出力できることが高い共焦点性に寄与していると考えています。そのことに加え、測定開始前に通常必要な光軸合わせが不要となったことにより微妙な温度変化に対して装置が安定化するように機能します。これらの効果により、レーザーキーを回せば常に高い共焦点性のスペックが安定して実現し、データを取得するまでの時間が大幅に短縮できます。ソフトウェアでは、機器制御とデータ解析に対応したWITec Suite ソフトウェアです。これにより、スピーディーにデータを取得、解析、画像化ができるメリットがあります。BtoCのお客様がラボに来られて1日でデータが必要となった場合でも、十分に対応できる能力を備えていると思います。また最近になって、ラマン分析に興味がある民間企業が非常に増えていると感じています。それは現在の共焦点ラマン顕微鏡システムが、レンズ、シングルモードファイバー、検出器、そしてソフトウェアの向上により、多くの企業の材料開発や商品開発に利用可能なレベルに達していると認識されるようになったからだと思います。

導入後、どのようにWITec alpha300を活用されていますか?

【小倉 博士】先に述べたクリームや製剤など製品の状態の評価と、皮膚に対する浸透効果を評価しています。数秒程度で完了してしまう単一ピーク取得や、1~2時間要するマッピングなど様々な使い方をしていますが、週4~5日で稼働させています。点数をつけるなら、120点つけても良いと思っています。私たちはBtoCの企業に化粧品原料や界面活性剤を納入しているため、測定結果を効果的に画像化、ビジュアル化できることは大きなメリットです。WITec装置で取得したデータから作成したマッピング像は、小角X線散乱のスペクトルデータなどとは異なり、画像データです。BtoC企業のお客様に向け、コマーシャルイメージとして訴求力があり、広告にインパクトを与えられるという理由でご利用いただいています。

最初にWITecを知ったのは?

【小倉 博士】独マックスプランク研究所でした。偶然的に使用したところ想像以上のデータが得られたため、驚いたのを思い出します。元々、私の専門はX線散乱です。2014年に私がオーストリアのグラーツでX線散乱を用いて研究を行っていた時、ベルリンの放射光施設を使用していました。そこで思いがけず、X線散乱の分野で有名なマックスプランク研究所のPeter Fratzl教授にお会いしました。学会などでのコンタクトからコラボレーションが始まり、Peter Fratzl教授の実験室を訪れると、X線散乱装置の横にWITecのラマンが2台ありました。他のラマン装置も所有されていたのですが、それら2台のWITecはなぜかフル稼働状態でした。そうすると試してみたくなります。さらに偶然的にも界面活性剤のサンプルを見つけたため測定を行いました。それが驚くほど良い結果だったのです。私が大学生時代に行った界面活性剤のラマン測定では、期待する結果が出ないという結論に達していたので、「このようなラマンがあるのか!」と興奮しました。

2022年8月に日本油化学会オレオマテリアル賞を受賞されていますが、そのイタリアのフィレンツェ大学との共同研究について教えてください。

【小倉 博士】ご存知の通り、フィレンツェには多数の名画があります。界面活性剤を用いて、その古い名画のクリーニングを行いました。私自身世界的にも有名な絵画に直接触れることになり、何人もから「羨ましい」という声を聞きました。笑い話になってしまいますが、実は私はさほど絵に興味がなく、汚れを落とすことにしか興味がなかったのであまり緊張せずに済みました。私は「あまり怖がらずにやる」ということを自分の心に置いていますが、それが良かったのだと思います。

日光ケミカルズでは、「2030年までに実現したい25の夢」というビジョンを発表し、その中に文化財修復による社会貢献といったことも含まれています。言わば創業77年の日光ケミカルズが、これまで培ってきた界面活性剤の製造技術を使って、社会に貢献するというプロジェクトです。その一環としてフィレンツェ大学と共同研究を行いました。ヨーロッパでは大学とのコラボレーションによる文化財修復は承認を受けやすいことからこのような共同研究はイタリアからスタートしました。今では日本国内の芸術系大学からもラボに来て、WITecのラマンを使用することもあります。日光ケミカルズとして、界面活性剤を使って女性の肌を美しくするように、名画の表面もきれいにしようというのが今回のプロジェクトでした。

小倉博士が受賞された第21回(2022年度)
「オレオマテリアル賞(日本油化学会)」の表彰状

化粧品原料の他にどのようなアプリケーションがあるのでしょうか

【小倉 博士】界面活性剤には数多くの種類があります。アルキル鎖の長さや親水基の大きさなどが異なり、そのバリエーションはさまざまです。例えば、クリームの状態を3年間にわたりお客様の手元で安定に保つことが可能になるなど、界面活性剤の設計次第で様々な効果を作り出すことができます。日光ケミカルズでは界面活性剤の親水基と疎水基を意図したようにコントロールできるため、インクの分散や半導体の洗浄、医薬品の分散など、それぞれの用途に応じた界面活性剤を製造しています。

UVカットのサンスクリーン剤に関しては、スライドガラスに人の肌に似た親疎水界面を作製した、サンスクリーン剤を簡単に評価できるモデル基板を製造しています。また、多くのサンスクリーンの製品で肌に塗ったときの感触が異なりますが、界面活性剤が粒径や分散性のコントロールに利用されています。共焦点ラマン顕微鏡によりその様子を可視化することもできます。バイオ関連では、肌でメラニン色素が作られ黒くシミになる現象の可視化がWITecのラマン顕微鏡により行われ、論文発表*されています。これからは、Bio Inspired Materialなど、数多くのバイオ系アプリケーションが創出されると考えています。2015年のWITec Paper Awardを受賞している私の元同僚のAdmir Masic (現在 MIT) は、ラマンを用いたウニのトゲの断面の構造解析を行っています。人工物ではない界面の構造は非常に興味深いものだと思います。

今後の共焦点ラマン顕微鏡に期待することは?

【小倉 博士】私が考える現状の共焦点ラマン顕微鏡の唯一のデメリットは、通常の光学顕微鏡の解像度までにとどまってしまっている点です。そこで私は、誘電率顕微鏡をSEM (走査型電子顕微鏡) とコンバインさせたアプローチに挑戦しています。これは現状の分解能をさらに高いレベルに引き上げたいと考えての挑戦です。それが達成されると、ナノ構造を分析する小角X線散乱や様々な放射光施設とラマン顕微鏡の2つを組み合わせることができ、未解明の領域において新たな知見が得られると考えています。例えば、エクソソームやワクチンなどのLNP (脂質ナノ粒子) の大きさは200nm程度となります。それらの内部構造が分析できるような技術が開発されることにより、例えばワクチン製造などに迅速に対応することが可能になると考察しています。現在のラマンの空間分解能は300nm程度と言われていますが、それは理想的な文献値です。現場で扱っているようなサンプル、医薬品や化粧品、化成品の分野では、1ミクロン程度と感じています。またスピードも重要な点ですが、スピードを上げても分解能は落とさない装置設計、それがユーザーの視点からの装置メーカーへのリクエストになります。

* Okada T., Iwayama T., Ogura T., Murakami S., Ogura T., Structural analysis of melanosomes in living mammalian cells using scanning electron-assisted dielectric microscopy with deep neural network. Comput Struct Biotechnol J. 2022; 21:506-518.

インタビューご回答者のプロフィール(敬称略)

小倉 卓(おぐら たく)

日光ケミカルズ株式会社
化成品事業部長 兼 研究推進室長

2005年 ライオン株式会社 研究開発本部 研究員(~2019年)
2009年 東京理科大学大学院 博士(工学)学位取得
2009年 Graz大学 客員研究員(~2011年)
2019年 日光ケミカルズ株式会社主幹研究員、東京理科大学 客員准教授
2022年 日光ケミカルズ株式会社 現職

受賞歴
2017年 平成29年度日本化学会コロイドおよび界面化学部会技術奨励賞受賞
2018年 第52回日本油化学会進歩賞受賞
2022年 日本油化学会オレオマテリアル賞受賞

(取材:2023年4月)
※記事の内容は取材時の情報です。

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